さまざまな働き方が増えてきた昨今、「フリーランスという生き方に興味がある」「独立して挑戦したい夢がある」そんな声もよく聞かれるように。同時に「本当にやっていけるか不安……」という人も多いようです。起業家を多く輩出してきた企業でカウンセラーを長く勤め、新しい世界へトライする人達の不安を受け止めてきた、小野寺晶子さんにお話を伺いました。
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お話してくれた人
小野寺晶子さん(エナジャイズカウンセリング主宰)
カウンセラー歴16年、年間カウンセリング約1000件。「仕事や職場、キャリア」から「親子・家族関係、恋愛・結婚、育児・介護」等、多くの悩みに耳を傾ける。
旧日本興業銀行系列資産運用会社(現アセットマネジメントOne)でキャリアスタート。大学院修了後、リクルートキャリア人事を経て独立。
保有資格/公認心理師/臨床心理士/マインドフルネス瞑想協会認定講師/MBSR8週間PGM修了/全米ヨガアライアンスRYT200修了/CTI’s Coach Training Program(104h)修了。
「話す」ことは、「不安と向き合い上手」になること
私はクライアントさんとお話するとき、最初に3つのことをお伝えしています。
1つめは、「守秘義務」があること。この場で話すことは「ここだけの話」。ですから、「安心してなんでも話して大丈夫ですよ」ということをいちばん初めにお伝えします。
私とあなたは、ここだけの関係性で、あなたの家族でも友人でもありません。ですから、「こんなこと言ったら相手の重荷にならないかな」などと気遣う必要はないですよ、と理解してもらいます。そうすることで、余計な心配をせず話したい問題にフォーカスできます。
2つめは、カウンセリングの効果について。「話す」ことは「心身を癒す力」がある、ということをお伝えしています。
感情というのは、消化できずに溜め込んだままだと心身に負担がかかります。すると、弱いところに影響が出ます。胃腸が弱い人ならお腹の調子が悪くなります。頭痛に悩まされる人もいますし、不安で寝つきが悪くなり睡眠の質が落ちる人もいます。
そういうとき、自分の感じていること、考えていることを誰かに話すことで、悩まされていた心身の症状が軽減、解消するんです。
3つめは、話すことで「自分を客観的にみる」ことができること。これもカウンセリングの効果です。
現状を客観視することで、手詰まりに思えていたことに打開策が見い出せたり、次のアクションにつながることが多いんです。
クライアントさんとお話していて、3つめのカウンセリングの効用をリアルタイムで感じられることは、本当によくあります。
あなたの「不安」、客観的に見てみましょう
私が社内カウンセラーとして長く勤めた会社は、定年まで働くというよりも「いずれ独立」という空気の強い風土。ですから、いわゆる日本の会社よりも、起業や独立することへのハードルは低かったと思います。社内カウンセリングの場でも、「起業をしたくて考えているのだけれど、なかなか一歩が踏み出せない」という悩みもよく聞きました。
やろうとしている事業で本当にマネタイズできるのか、実はお客さんはそんなにいないんじゃないか、そもそも自分にそれだけの実力はあるだろうか……。
若ければスキルや経験の未熟さを心配し、年を重ねた人ならもう遅いのではと懸念し……。
あらゆる年代ならではの不安にかられて、フラットに考えられず、上手くいかないパターンばかり思い浮かぶループにはまってしまうようです。
そういうときには、こう聞いてみます。
「じゃあ、他の人が同じような心配をしていたら、なんて言う?」
たとえば、信頼している友人や先輩、仕事で尊敬している人が、同じ状況で、同じ不安を口にしていたら?
「うん、確かに、その事業にはお客さんいないかもね」って言いますか? と。
すると、「そんなことない。チャレンジする価値の十分にある事業だって伝える」という人が多い。そうやって答えてみて、「あ、そうか」とやっと自分のことも距離をおいて冷静に眺めることができるんです。
人というのは、自分のことはなかなか客観視できないもの。
客観視することを助けるのが、カウンセリングの大きな効用の1つです。
独立後、上手くいかないパターンは…
不安のループから抜け出して、実際に事業計画を立てはじめたり、事業を始めたりするなかで、当初予定していたことを軌道修正していくことは、当然あること。
理想と現実、ライフワークとライスワークのバランスをどうとっていくか、という問題でもあります。
ここで注意したいのが、「稼がなきゃ」という不安が不必要に大きくなっていないか、ということ。
その事業がマネタイズできるのか、つまり、それで食べていけるのか、というお金の問題は、フリーランスの重大事項。特に、養うべき家族がいる人には大きな不安になりえます。
その結果、必要以上に不安にフォーカスしてしまうと、本当にやりたかった理想から離れて「これなら稼げるんじゃないか」というほうに流れやすくなります。
こうなると、上手くいかなくなる場合が多い、というのが私が見てきたクライアントさんたちに言えることです。
なぜ、上手くいかないのでしょう。
ここにも「不安」が大きく関わっているのだと思います。
不安や心配は、生存のために必要な防御装置でもあります。
たとえば、会社を辞めて独立するための一歩を踏み出せないのは、「現状維持したほうがいい」という本能的な選択。ここまで会社員で生きてこれたという実績を踏まえた生存戦略ですね。
人間も生き物ですから、本能的にそうした機能が働くんです。
ただ、「独立・起業したい」と思い立ったことも、「現状を変えたほうがいい」という生存戦略だということも覚えておいてください。
あなたは、なぜ、独立しようと思ったのでしょう。
今いる組織だとやりたいことができなかったり、制約が大きかったりして、違うやり方でアプローチしたい、新しい環境で挑戦したい、そう考えたのではないでしょうか。
それが、不安に流されて「食べていけること」がいつのまにか目的にすり替わってしまっていないでしょうか。だとしたら、本来の目的を見失っているのかもしれません。
窮屈で重荷だったから新しいやり方をはじめたはずなのに、気づいたら元の状態に戻っていた、これなら辞めないほうがよかった……なんてことにならないためには、独立しようと思ったときのことを思い出してみて下さい。
大事なのは、ライフワーク(理想)を見失わずにライスワーク(現実)を取り入れていくこと。そのためには、「不安」を客観的にみて上手に手綱をとることが必要です。
不安は上手に使えば大きな味方になります。
「これでは売れない、仕事が来ないのでは……」と漠然と不安になるのではなく、何が心配材料なのか、どうしたら解消できるのかなど、問題点を洗い出せれば、よりよい商品やサービスへとつながります。
最悪の事態を想定できることは、ビジネスにとって不可欠なリスク管理でもあります。
また、具体的な数字で「稼がなきゃいけない」と思っている金額を把握してみたことはありますか? 必要と思う支出の中身も検討してみてください。思ったよりもその額は抑えられることもあります。
私も覚えがありますが、会社員時代は勤務に合わせた諸経費や、ストレス発散のためのお金などを意外と使っているもの。住居費や通勤費、またおつき合いの外食や交際費などを整理してみると、案外少ない金額で新しい生活を回せることに気づくかもしれません。
迷い、悩む時間は「準備の時間」
不安と上手に付き合うことは、公私にわたって人生に不可欠なスキルです。
決断力があるように見える人でも、必ず自分自身の不安と向き合っている時間があります。
なかなか一歩を踏み出せないという人、あなたの気持ち、とてもよくわかります。
私も会社を辞めるまで、3年ほど悩みましたから(笑)。
私は新卒で金融系の会社に入り、主に人事部門でキャリアを積みました。人事としてEAP(Employee Assistance Program。 心理的アプローチから社員を支援するプログラム)の導入を検討したことが私のカウンセリングとの出合いです。
カウンセリングを体験したときの、
「私、こんなに、話したいことあったんだ」
という驚きと感動は忘れられません。
私がカウンセラーへの道を意識した鮮烈な体験でした。
その後の流れは、当時の会社を辞めて、大学院で臨床心理士になるために学び、資格を取得、カウンセラーとして企業に就職して新たなキャリアを重ねた後、独立、今に至る……という感じですが、スムーズに来たかというと、そうでもありません。
お話したように、辞めるまでに3年間費やしていますし、そのときどきで悩み迷いながらも一歩ずつ踏み出しては立ち止まったり、ときにはエイヤっと勢いで進んだりしながら今日まできた、というのが実際です。
いま振り返ってみて、迷い、悩んでいる時間というのは、目的に向かって突き進んでいるときと同じくらい大切な時間だったな、と思います。
この間に、「自分が本当にやりたいこと」に向かい合うこともできました。
また、辞める気持ちがおおよそ固まってからの1年間はとにかく貯金をしました。大学院の学費や生活費など、働かなくても2,3年は生活できるだけの準備です。
精神的にも物理的にも、必要な3年間だったと今では感じています。
悩んでいい。選択肢の多さを味方にして
私が大学を卒業して最初の就職活動をした頃は、企業に入る以外の働き方は、一般の学生には視野に入ってこないような時代でした。
今は、そのときどきに、いろいろな選択肢があります。
大学在学中や新卒で起業する人もいますし、企業に就職して転職しながらキャリアップする人、まったく違う業種へ転職して働き方を変える人もいますし、正社員をしながら副業する人、私のように学び直す人、独立する人など、人生のさまざまなシーンに合わせて、働き方に多様性が出てきました。
選択肢が多いということは、それだけ迷い悩む機会も多くなるでしょう。
でも、それって素敵な悩みだと思います。
これから働く人も、すでにスタートを切った人も、選択肢があることを味方にして、迷い悩む時間を自分と向き合うきっかけにして活用してほしいと思います。
悩むだけ悩んだら、そのうち、エイヤッと決める瞬間も出てくるでしょう。私がそうでした。
名のある企業を辞めて一から学び直すと言ったときは、周りにはずいぶん心配されましたが、結果、何とかなっています。
勢いで決めたようでいて、踏み出す準備ができたタイミングで無意識に人は決断するのだと思います。
いろいろな選択肢のなかで、私は最初に会社員として働けたのはよかったと感じています。
働く選択肢が増えたといっても、いちばん多いのは会社員です。
「会社で働くとはどういうことか」を知ることは、個人事業主でも経営者でも役に立ちますから。
会社員をずっとやる必要はないし、必要ならまた会社勤めをすればいい。
そうした柔軟な働き方ができる今の時代はとてもいい。
選択肢の多さを味方にして、悩みを上手に活用してくださいね。
談話:小野寺晶子さん(エナジャイズカウンセリング主宰)
文/中山圭子
書籍の企画・編集・ライティングが本業。新刊は『超シンプルな節税と申告、教えてもらいました!』中野裕哲氏との共著。その他、フリーランスの青色申告お助け本『超シンプルな青色申告、教えてもらいました!』も好評、重版出来!
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